9章

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やがて、タナトスは重たい唇を開いた。 「蚊を殺したことがあるか」 とても関係があるとは思えなかったが、ユーリは大人しく答えることにする。 「……あるけど」 「その時、蚊に恨みを持っていたか。自分の血を吸った報復などという、大層な企みを持っていたか」 呟くように問うタナトスは、ようやく一歩、演奏用の椅子から踏み出した。 警戒を強めるユーリは、先程から会話が成立していることに、密かに驚く。 「なんとなく不快だから殺す。蚊を殺す人間の心情など、そんなものだろう」 「……」 「私が貴様らを殺す際、抱く感情はそれだ」 タナトスは、黙りこくる少女に構わず、己の内側に渦巻くものを吐き捨てる。 「理屈めいた理由など、とうの昔に失ってしまった。ただ、貴様らが呼吸し、生を営んでいる現実が、この上なく不愉快で……」 燃えるような赤い目が見つめているのは、本当にユーリなのか。 彼女には分からなかったが、自分と微妙に色合いの違う金髪を、今にも逆立たせそうなくらい、彼が憤っていることは理解できた。 「魂の髄から貴様らを憎らしいと思うから、殺したくなるのだ」
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