9章

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予想はしていたが、やはり心が暗くなる理念に、思わずため息をつく。 (やっぱり、こいつは) 今のタナトスは、魔族と呼べるかもしれない。 けれど、その心は魔族でも人間でもない。平然と、人々を蚊と同列に語ってしまえるほどに。 (心が……終わってる) 自分の想い人もまた、似たような結論を出していたとは露知らず、ユーリは制服のポケットを探る。 出てきたのは、銀のプレートに紫の玉石が取り付けられた、粗末な髪留め。 一秒だけ凝視してから、手早く自身の長髪をまとめる。柔らかにうねるポニーテールは、名の通り動物の尻尾のようだ。 「私たちは、蚊じゃないわ」 呼び出し、右の手首に巻きつかせるのは、魔紐<グレイプニル>。 あらゆる魔力に対抗できる逸品を目にしても、タナトスの眼差しに変化はなかったが、臆することなく噛みつく。 「一度はたいたくらいでくたばると思ったら大間違いよ」 「貴様に私は殺せない。何度も言わせるな」 「私はあんたを……究極生命創造計画第八世代被験体の一体であるタナトスを、殺しに来た」 一蹴する宿敵を、お返しとばかりに一蹴して、 「何度も言わせないで」 ユーリは勢いよく床を蹴った。
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