51550人が本棚に入れています
本棚に追加
予想はしていたが、やはり心が暗くなる理念に、思わずため息をつく。
(やっぱり、こいつは)
今のタナトスは、魔族と呼べるかもしれない。
けれど、その心は魔族でも人間でもない。平然と、人々を蚊と同列に語ってしまえるほどに。
(心が……終わってる)
自分の想い人もまた、似たような結論を出していたとは露知らず、ユーリは制服のポケットを探る。
出てきたのは、銀のプレートに紫の玉石が取り付けられた、粗末な髪留め。
一秒だけ凝視してから、手早く自身の長髪をまとめる。柔らかにうねるポニーテールは、名の通り動物の尻尾のようだ。
「私たちは、蚊じゃないわ」
呼び出し、右の手首に巻きつかせるのは、魔紐<グレイプニル>。
あらゆる魔力に対抗できる逸品を目にしても、タナトスの眼差しに変化はなかったが、臆することなく噛みつく。
「一度はたいたくらいでくたばると思ったら大間違いよ」
「貴様に私は殺せない。何度も言わせるな」
「私はあんたを……究極生命創造計画第八世代被験体の一体であるタナトスを、殺しに来た」
一蹴する宿敵を、お返しとばかりに一蹴して、
「何度も言わせないで」
ユーリは勢いよく床を蹴った。
最初のコメントを投稿しよう!