51551人が本棚に入れています
本棚に追加
束の間、和やかな雰囲気を共有してから、フェルムが切り出した。
『よし……じゃあ、ひとまずオレのところまで来い』
「オレのところ?」
『木に背中を向けて歩け。いずれ着く』
(木って……)
小高い丘の上を見上げる。四方に大きく枝を広げる、立派な木が見えた。この精神世界の中心にそびえる巨木だ。
あれだろうか? 他にも木は生えてるけど、目印になりそうなものじゃないし。
判断し、背を向けて歩き出す。フェルムが注意をしてこないところを見ると、こっちで間違いないようだ。
まっすぐ進む足元で、穏やかな風が小さな葉を揺らしている。
「……あ」
一分もせず、銀色に輝く物体が見えてきた。
巨大な竜の頭骨が、大口を開けたまま、半ば地面に埋まっている。
緑の合間に見える色や質感は、骨ではなく鉄だ。どこからともなく降り注ぐ日差しを、重く反射している。
"オレのところ"というのは、あの口腔から伸びる階段を下りた先だろうか?
微妙な傾斜に踏み込もうとしたオレは、
『そこで止まれ』
「へ?」
唐突に待ったをかけられ、半歩だけ踏み出したところで止まった。
最初のコメントを投稿しよう!