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「私は先程、あなたをのんきと評しましたが、訂正しましょう」
言葉遣いは丁寧だが、発せられる声は、今まで以上に侮蔑に染まっている。
優は意に介さない。向けられる大量の武器にも臆さず、手袋を取り去った両手をだらりと垂らした。
「あなたは愚鈍なのです。この窮地に陥ってなお、毛ほどの危機感も抱いていないのですから」
リグベルは嫌みたっぷりに語っているが、集中する優の耳には届かない。
緻密に、繊細に、それでいて大胆に。感覚神経を総動員して、自他の状況を脳内で整理していく。
「特務隊の名も安くなったものですねぇ……がっかりですよ」
六メートル後方。鋭利な日本刀を構える誰かが、緊張感たっぷりの吐息をついた。
まともな神経の持ち主もいる。優は内心、そのことに不思議なくらい安堵してしまった。
「最後に学習しなさい。その傲慢こそが、あなたの敗因であるということを」
吠えたリグベルは、右腕をまっすぐこちらに伸ばした。優を円形に取り囲んでいた兵士たちが、全身に魔力を帯びる。
緊張感と士気が、極限まで高まるのを見計らって、
「遠慮はいらん。骨も残さず殺してしまえ!」
リグベルが高らかに命じた。
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