2章

2/50
51521人が本棚に入れています
本棚に追加
/639ページ
暗闇の中で、木の葉のざわめきを感じる。 頭は冴えないが、耳は周りの音をしっかり聞いている状態。目覚まし時計の力を借りずに起きる時の感覚に似ていた。 唯一、まぶたの重さだけが異様である。なかなか持ち上がらない。 意識がはっきりしないせいで、思考活動さえ始まらない。もどかしさに歯ぎしりしたくなる。 と、そばに生き物の気配。 忍び寄ってきたかのように無音だが、敵意は感じられないし、異臭もしない。危険はないようだ。 しかし、この機を逃してはいけないような気がして、全力で精神に呼びかける。 (……起きろ……) あるいは、それは枕元に腰を下ろした、何者かの声だったのかもしれないが。 とにかく、 「……ん……」 彼女──朱鷺沢 時音は目を開けた。 布切れの天井。布切れの壁。棒を四つ立て、大きな布を巡らせただけの簡易テントだ。 意識はまだ、夢と現実の間をさ迷っているらしい。目はどちらも開いているのに、いつまで経っても焦点が合わない。 「目ぇ覚めたッスか?」 と、そばにいた何かが明るく尋ねた。懸命に相手を見ようとする。
/639ページ

最初のコメントを投稿しよう!