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何にせよ、いつまでも寝ているわけにはいかない。
「ぐ、ぅ……!」
骨から軋むような激痛に耐え、布団から這い出て立ち上がった。長い黒髪が、べったり背中に貼りついているような心地がする。
手足はもちろん、<メメントモリ>に引き裂かれた肩や胴にも、包帯が巻かれている。
その上に薄衣を着ている(ゴンが着替えさせてくれたのだろう)が、包帯の白は隠しきれていなかった。
「どこ行くンスか、そんな体で」
と、ゴンが静かに問いかけてくる。枕元に正座したまま、時音の方を見ようとする素振りすらない。
その落ち着きぶりが、ひどく癇に障った。テントを吹き飛ばすような剣幕で吠える。
「桜峰に決まっておろう!」
「無茶言わないでくださいッス。てか、あっしの質問の答えは?」
「後にせい!」
暴れる心臓。磨り減る声帯。
彼の言う通り、まだ安静にしなければならないようだが、動かずにはいられない。
ふらつく足で、出入口とおぼしき布の切れ目を、払う。
数百メートル向こう。ちょうど桜峰市との境辺りに。
何本もの大樹が、まるで壁のように立ち並び、稲木市の街並みを見下ろしていた。
「……」
思考回路が、完全に停止した。
先程までの呼吸困難も忘れ、いっぱいに見開いた目に、立ち塞がる森を収める。
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