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「三十分くらい前、いきなり現れたンス。公式発表はされてないッスけど、ヴェッテンハイム家の禁術と見て間違いないッス」
呆然と立ち尽くす時音に、いつになく神妙な声色で語るゴン。
「各地の自警団が集まって、どうにか攻略しようとしてるンスけど、樹皮が硬すぎて歯が立ってないみたいッス。
しかも、桜峰の魔力供給所と繋がってるようで、傷がついたら即修復……鬼ッスよ、もう」
淡々と語られる情報は、自分にとって必要なもののはずなのに、彼女の耳には遠く聞こえていた。
現実から目を背けていたいせいだろうと、まるで他人事のように考えるが、
「そんなこんなで、現在桜峰は陸の孤島。住人の安否も不明のまま、政府が対応を協議中ッス」
キツネの商人は、逃避を許してくれない。
突きつけるような一言に、全身の力が抜ける。その場に崩れ落ちる直前で、駆け寄ったゴンが支えてくれた。
大きな尻尾を駆使して、柔らかくもしっかりと。
「話せることだけでいいんで、話してくださいッス。あっしも、知ってるこたぁ全部話しやすから」
「……」
優しい声には、頷くことしかできなかった。
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