2章

6/50
51527人が本棚に入れています
本棚に追加
/639ページ
「三十分くらい前、いきなり現れたンス。公式発表はされてないッスけど、ヴェッテンハイム家の禁術と見て間違いないッス」 呆然と立ち尽くす時音に、いつになく神妙な声色で語るゴン。 「各地の自警団が集まって、どうにか攻略しようとしてるンスけど、樹皮が硬すぎて歯が立ってないみたいッス。 しかも、桜峰の魔力供給所と繋がってるようで、傷がついたら即修復……鬼ッスよ、もう」 淡々と語られる情報は、自分にとって必要なもののはずなのに、彼女の耳には遠く聞こえていた。 現実から目を背けていたいせいだろうと、まるで他人事のように考えるが、 「そんなこんなで、現在桜峰は陸の孤島。住人の安否も不明のまま、政府が対応を協議中ッス」 キツネの商人は、逃避を許してくれない。 突きつけるような一言に、全身の力が抜ける。その場に崩れ落ちる直前で、駆け寄ったゴンが支えてくれた。 大きな尻尾を駆使して、柔らかくもしっかりと。 「話せることだけでいいんで、話してくださいッス。あっしも、知ってるこたぁ全部話しやすから」 「……」 優しい声には、頷くことしかできなかった。
/639ページ

最初のコメントを投稿しよう!