2章

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頭の奥で、何かが弾けている。血のように赤いそれは、瞬く間に脳を支配した。 ゴンに怒ることなど何もないのに、止まらない。 「そんなこと、いちいち言ってもらわんでも分かっておるわ! 舐めるでない!」 「ちょ、別にそういうつもりで言ったわけじゃ……」 「わしがその程度で参るものか! わしは……わしは……!」 言いながら、心中で嘆息する。苛立つ自分が情けない。 命の恩人に当たり散らした慚愧の念に、時音は身を震わせて下を向く。 毛布を握りしめる両手に向かって、ポツリ。 「巧美を……置いてきてしまった……」 ずっと一緒にいてほしいと、彼女は求めてくれたのに。まっすぐな要求に感激し、共に在ることを誓ったのに。 約束を破ってしまった。一番大切な人を裏切ってしまった。 罪悪感で胸が押し潰されそうだ。今さら気づいた自分が、嘆かわしくて仕方ない。 「わしは……大馬鹿者じゃ……」 絞り出した声を追うように、ほたほたと涙がこぼれ落ちる。 泣くこと自体が久しぶりすぎて、どうやって泣き止めばいいのか、分からない。
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