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歯を食い縛り、静かにまつげを濡らす彼女の頬を、
急に立ち上がって体を躍動させたゴンが、二つの尾を一つに束ね、思い切り打ちすえた。
高らかな音が、粗末なテントを飛び出す。
衝撃で倒れ伏す時音は、突然の事態に混乱するあまり、うめき声すら上げられなかった。
「いい加減にしてほしいッスね、朱鷺沢さん」
硬直する少女に、毛ほどの優しさもない、冷厳な声が襲いかかる。
糸のように細かった目は、ほんの少しだけ開き、暗い鳶色の瞳を覗かせていた。
「これ以上、そんな情けねぇ面で懺悔垂れ流すんなら、睡眠薬しこたまブチ込んで黙らせるッスよ」
脅しではない、と眼差しが語っている。彼の怒りは本物だ。
いや、怒りというより嘆きかもしれない。行動を起こす前から涙する時音の態度を、許せなかったのかもしれない。
「…………すまぬ」
小さく謝罪する。声が震えてしまわないよう、懸命に感情を押し殺した。
素直に頭を下げられ、決まりが悪くなったのだろう。ゴンはため息をつき、後頭部を掻いた。
太い打撃武器と化していた尻尾も、するりとほどけて床に伸びる。
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