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……未来(みく)……
かすれた声で僕は彼女の名前をつぶやいた。
目が覚めるとそこはただの闇しかなかった。
重い腕を持ち上げてべたべたとあたりを探る。
僕はまあるくて、硬くて、冷たい何かの中にあった。
そうそう、カプセル。タイムカプセル。
僕はぼやけた頭をフル稼働させた。
僕は……有坂 幹久(ありさか みきひさ)。たぶん28歳。
いや、違う。
正確にはとんでもない年寄りだ。
うん、おそらく……うん。僕の計算が正しければ100単位での年寄り。
だんだんと思い出してきた。
僕は記憶の奥底から手探りで手元のボタンを押した。
間抜けなシューという音。
そんな間抜けな音だけれど、現実感を引きずり出すのには一役買っている。
僕は一度大きく息を吸った。
久方ぶりに自らの意思で呼吸をしたせいか意識していなかった胸郭の運動がどことなく不思議に感じる。人間の無意識の運動とはすばらしいものだ。
ああ……生きてる。
僕は確かに生きていた。
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