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ジリジリと相崎は近づく。その顔は怒っている様にも見えれば、
悲しんでいる様にも見える。
「弓ちゃん、小研くんから話、聞いてるわよね………?」
「…………それって、よっちゃんが私のトレーニングやりたくないって言ったって話?」
「…………そうよ」
涼は相変わらず強張った顔で睨んでいる。
「弓ちゃん。弓ちゃんの昔の夢、覚えてる?」
「うん。いつかよっちゃんと二人で、世界中の名所を見て回るの」
「………うん、私も覚えてるわ………。でも弓ちゃん」
言いかけた言葉と共に、相崎が少し俯いた。
「今もその夢、変わらないんだよね?」
「うん!私は今でもよっちゃんと世界旅行が出来るのを夢見てるよ!」
いつもと変わらぬ神子田の笑顔を見た相崎の脳裏に浮かぶのは、思い出ばかりなのであった。
「その夢……叶いそうなの……」
「ほんと!?」
「うん……。だから最近忙しかったの………。でも………でも………」
相崎の声が次第に小さくなっていき、聞こえづらくなる。風が少々吹いてはいるが、それのせいだろうか。
そして、相崎の肩が震え始めた。何故か言葉もである。
それが何を示すか、神子田も涼もメイアにさえもわかっていた。
「よっちゃん、泣いてるの?」
「夢に手が届きそうだった………。ずっと昔から、今も変わらない私のたった一つの夢………。弓ちゃんはもうすっかり忘れてると思ったのに………。だから、何としても逃したくなかったの……!!!」
「よっちゃん…………」
「だから私には……弓ちゃんのトレーニングに付き合う暇さえ無くなったわ…………。でも弓ちゃんは……私と視力を治さなきゃ意味が無いって………言うか……ら……」
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