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俺がこいつに何か用事があると勘違いされたらしい。まぁ俺がこいつを見ていたことも事実だ。無視するのも後味が悪いし、テキトーに返事をすることにした。
「いや……。こんな時間に何してるのかと思って」
別段知りたいわけでもなかったが、興味本位で聞いてみる。
こんな夜中に一人で公園のベンチに座って何してるんだ……しかもタンスを背負って。と言う意味で『何してるのかと』言ったつもりだった。が、
「む。これがいわゆるナンパってやつね。こっち側へ来る前に聞いたことがあるわ。『お姉さん、可愛いね。名前何て言うの? てか、何してるの? 暇なら俺達と一緒に遊ばない?』ってやつでしょ? 可愛いと言ってくれるのは嬉しいけど生憎暇じゃないから。リーネ・イヴ・リリス。これ私の名前ね。名前だけ教えてあげるから早くどこかへ行って」
と、変な勘違いで受け取られた。
リーネ……なんとかは少し表情をしかめると、演技も交えながら早口に自分の言いたいことだけを押し付けてくる。どうやら俺と会話のキャッチボールをするつもりは無いようだ。
……別にこれ以上会話を続ける必要はなかったが、ここで引き下がれば俺がこいつをナンパして、その挙句失敗したことを認めたようなものだ。なんで俺がそんな脇役以下のモブキャラみたいな役にならないといけないんだ。
「いや、色々と違うから。勝手に変な『私、モテて困るのよね』的な幸せ勘違いするのはやめろ」
とりあえず俺の名誉の為にこいつの幸せ勘違い脳を否定しておく必要がある。だいたい可愛いなんて一言も言ってない。そしてそもそも俺はナンパではない。
「噂では、茶髪や金髪に髪を染めたチャラチャラした格好の男がするって聞いたけど……。あんた黒髪だし、服装もジャージってやる気あるの? 出直して来なさい」
この女……。俺の言葉に耳を傾けやしない。しかも、何が『出直して来なさい』だ。シッシと払うように動作する手も腹が立つ。
湧いてきた苛立ちを宥めながら俺は幸せ勘違い女の座っているベンチへ近づいた。勿論、ナンパの為ではない。俺の名誉の為にこの女の幸せ勘違いを訂正する必要があるからだ。
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