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「いってぇ……」
受け身をとる余裕があるはずもなく、整えられた芝の上に横っ腹を打ち付ける。
あの女……。怒ったり照れたり呆れたりと態度がコロコロと変わると思えば、今度はいきなり突飛ばしてきやがった。ちょうど茂みの隙間から見えるリーネを睨む。
『いくら邪魔だからって、いきなり突飛ばすのは酷いだろ』とリーネに言ってやろうと文句を考え立ち上がろうとした時だった。
「見つけたぞ。リーネ・イヴ・リリス。表側にまで逃亡するとわ……。名高きリリス家の名が泣いているぞ」
と、第三者の声。その声を聞いた俺は横っ腹の痛みなんか忘れて無意識に息を殺し、気配を消そうとしていた。理性では制御できない深い部分、『本能』が姿も見えない相手に恐怖を感じ取っていた。
なんだこの体中の血が冷たくなっていく感覚……。そう言えば、リーネは俺を突き飛ばす前に何て言った? 『隠れて』って言わなかったか?
茂みの隙間から見えるリーネの表情は緊張感がこっちにも伝わってくる程強張っている。
「……シャーロ」
リーネの向かい側にさっきの声の主がいるのだろうか。こっちからじゃ茂みでの影になっていて見えない。
「いまならまだ一星様も許してくれる。幸いまだ日はそんなに経ってない、問題も起こってない。表側の住人と接触する前に帰るんだ」
さっきから会話の中に出てくる『表側』ってなんだ?
「嫌!! 私には夢があるの。それは私のことを【欠片の生け贄リーネ・イヴ・リリス】としてしかの価値を認識していないあっちではできないことなの」
声を張り上げるリーネは取り繕って強がっているようにしか見えない。後ろで堅く握る拳は震えていた。
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