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「説得させに来たわけではない。『リーネ・イヴ・リリスを強制送還せよ』と上からの命令だ。それに話して聞くようなら、逃亡などしないだろうしな」
パチン。と指を鳴らす軽快な音が静寂な暗闇に溶ける。
その数瞬後、軽快な音とは全く正反対の重い音。言葉で表すなら『轟』っと腹の底に響く音が体が全体を押し通る。
「はい!?」
俺は生まれて初めて自分の目を疑った。異常な温度上昇を肌が感じた刹那、俺の目の前で炎が公園全体を囲むように燃え上がったのだ。
その炎は俺のすぐそばまで迫り、堪らず茂みから転がり出た。
「っ!? なんで出てくるの!? 隠れてって言ったじゃない!」
リーネは隠していた点数の悪いテスト用紙が見られた時のようにばつの悪い表情を浮かべて言う。
「馬鹿か。じっと隠れてたら火だるまどころか灰になるだろ!」
「……ふむ。これは困った。すでに表側の住人に接触してたとは……」
何もない目の前の虚空からさっきと同じ不気味な声が聞こえる。
「どこだ?」
辺りを見渡すが、さっきまでリーネと会話をしていた人物は見当たらない。
「まぁ、ここで消せば問題はないか……」
辺りを炎で囲まれ既に灼熱の空間となっている中、以前不気味な冷たさを保った声が聞こえる。
何らかの方法で姿を消してるのか? 確かに正面から声が聞こえるのに姿が見えない。正直気味が悪い。
「宿すは爆炎。速さを持って撃ち抜く槍を具現せよ【爆炎の槍(フレア・ボム)】」
その声が何か言葉を紡いだ後、一メートルくらいの大きさの炎の槍が目先三メートルの空中で発生。
「なっ!?」
しかし、次の瞬間には目前へ迫る炎の槍となっていた。
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