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――◆◆◆――
街灯の光がほとんど届かない河川敷をいま出せる全速力で駆け抜ける。もう何時間も逃げている感覚がする。『取締り組』(チェッカーズ)と連絡が取れないどころか誰にも連絡がつかない、街は最初から人なんか住んでいなかったように人気がなかった。いくら深夜とはいえ明らかにおかしい。
「何で俺がこんなこと……」
と、自問自答をしてみるが、原因は分かりきっていた。後ろに背負っているこいつのせいだと。
別に人助けのヒーローがしたいわけじゃない。ただ、俺を庇って人生のバットエンドを迎えられちゃ俺が困るんだよ。それに借りを作ったままだと後味が悪い。
「――――せよ!」
暗闇の奥から聞こえてきた、聞き慣れたくなかったフレーズを鼓膜がキャッチする。この何時間で何度も聞こえていた危険が迫ってくる時の合図だ。
反射的に後ろを振り返ると、暗闇から見えるのは赤く輝く手。
赤い手が俺の方に向いていることを視認した瞬間、ほぼ反射的に体が真横に飛び退いた。
その刹那、
暗闇を紅く照らす火球が俺のさっきまでいた場所を突き抜ける。
離れていても身を焦がすような熱量を持ったそれは地面に炸裂し、辺り一面を照らす炎の柱となった。
この何もない河川敷といった場所で唯一俺の身を隠していた暗闇が炎の柱に照らされ一瞬にして取り払われる。
「表側の住人が何をでしゃばって……。さぁ、さっさとそれを渡せ」
暗闇のカーテンから姿を表したのは群青のローブを纏い、分厚い二冊の本を身の回りに漂わせている人物。
「……何なんだお前は」
相手を目の前にして俺は今まで感じていた『異常』を遥かに上回る『異状』な何かを与えられた。
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