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祭り
ざわざわと騒がしいくらいの街の中
たいした隙間すら見えず、人の壁が流動的に動いている
ある人はわたあめを持ち、ある子供はたこ焼きを嬉しそうに頬張っていた
そう、今日は年に一度の祭りなのだ
「ったく!なんで祭りってのは」
キラキラと輝く笑顔の中に不機嫌そうな顔が1つ
耳がやっと隠れる位の金のショートヘアに蒼い眼、筋骨隆々とまではいかないが引き締まった体をした青年が歩いていた
どうやら人混みが嫌いらしい
本人は知ってか、しらずか人の少ない所へと向かっているようだ
木造りの家屋の間をいくつも抜けて、森の中の生き物の気配すら感じない奥まった所にあるひらけた場所
人々に忘却された空間にポツリとたたずむ梅の巨木
堂々とした立ち姿は長い歴史を感じさせられる
「ひとり・・・か」
青年は幹に触れ、呟いた
その静かで悲しげな声は草木で反響し、やがて霞となって消えた
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