#1

6/29
前へ
/31ページ
次へ
「あ……うん」 「熱でもあるの?」  心配そうな顔をして、こちらを見る。 いっそのこと、全て”発熱のせい”という事にでもしてしまえたら良いのに、そんな都合良く行くはずもなく、身体がだるい事もない。 もしかしたらこれは夢なのかも――頬を思いっきり抓ってみてもやっぱり、それ相応の痛みが走るだけ。 「……あんた、本当に大丈夫?」  半ば呆れ顔の母を相手に、笑って誤魔化すくらいしか思い付かない。 「ちょっと駄目かも」  たぶん、いや、本気で駄目だろう。 何がと言われたら、今自分に起きている状況の全てが。心配した母が、額に手を当てる。 「熱は――無いみたいね。具合悪く無いんだったら馬鹿な事言ってないで、さっさと用意して学校行きなさいよ。遅刻しても知らないんだから」  小さく溜息をつき、背中を向ける。そんな母の後姿を見た後、時計を見ると、既に家を出るべき時間になっていた。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

137人が本棚に入れています
本棚に追加