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「ん……うぅ…」
いつものように呻き声をあげながら、私の1日はスタートした。今日も変わらず何もないことだろう。
何もないことは良いことだ。だってそれは、平和である証拠だから。
容姿も成績も、人としての価値みたいなものも、私は普通の中の普通。
今日もいつも通り、寝癖でボサボサの髪を左手で掻き上げ、反対の手で眼鏡をかける。ルーチンワークと言ってもいい。
と思っていたら、
「………あれっ?」
手がいつもと逆だ。私としたことが、いつも通りじゃない。いったい何年前から同じ作業で朝を迎えたと思っているんだ。
まあ、憶えてないんだけど。
「それでも、あの夢はいつも通りなんだね…」
私の独り言は、六畳の部屋に消えていった。部屋に唯一置いてあるクマのぬいぐるみが、無表情に私を見詰める。
いつ頃からか、毎晩同じ夢を見るようになってしまった。
黒い何かに追いかけられ、私は全力で逃げて、でも必ず捕まって、気付いたら血溜まりの中に倒れてる。どんなに夢だと意識しても、絶対に同じオチ。
「何回死んだんだか…。ま、夢はそんなもんだよね…」
また独り言を呟きながら起き上がって、ピンクのパジャマを上から………下から脱ぐ。
制服のスカートをクローゼットから取り出し、履こうとしたところでベッドに放り出した。
「……いつも通りじゃない。寝ぼけてるのかな…」
いつも下から脱いで、次に上を脱ぐ。下着姿になったらクローゼットからセーラー服を取り出して着る。
さっきの行動はまるで別だった。
ルーチンワークと呼べない。
「何か焦ってる…? それとも緊張……………あ」
カレンダーと時計を見てあることを思い出した私は、高速で制服を着て階段を駆け降りた。この際ルーチンがどうとか言っていられない。
だって今日は4月4日。新しい学校に転校生として入学する日だから。
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