手紙

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拝啓、紺野梓様。 早川透です。お久しぶりですね。 君がいなくなってから、どれくらいの月日が流れたのでしょう。 君のいない、このだだっ広くなった無機質な部屋にあるピアノが、妙に似合わなくて… まるで君の隣にいた僕を見ているような、そんな日々です。 あのピアノ、覚えてますか。 僕と共に置いて行ったこのピアノ、君が弾けばあんなに鮮やかだった音色は、僕が弾くと間の抜けた音がつまらなさそうに鳴り響きます。 そうして、君の弾いたピアノが過去になるにつれて、その音色は、もう思い出せないものとなっています。 いくら感動しても、それは時間というやすりがいつしかすり減らしていて、鮮やかだった、という事実だけしか今の僕の中にはないのです。 でもファの場所だけは今でも覚えてるんですよ。 君に散々場所を教えてもらった、あのファ。 君はなんでそんなにファにこだわるんだって不思議がってましたね。 だって、ファって君みたいじゃないか? 優しくて、純粋で、透き通った切ない音。 こんなことを書くのは、あなたのことを未だ追いかけている訳ではありません。 ただ、僕の中で消えていくあの恋を、最後にもう一度生きてみたくなったのです。 傷つけてしまうかな。 最早君の中で僕は、傷つくほどの価値もないのかな。 それでもいい。 僕の中で君が消える前に 僕は最後に君を思います。
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