Story1 はじまりの刻

5/8
105人が本棚に入れています
本棚に追加
/112ページ
何故なら先刻まで何も映らなかったクリスタルの中に、大地一面に咲き誇る純白の花を見たからだ。 羽根のような形状をした不思議な花だ。 時折風に揺られて踊り、背景には地平線に落ちていく夕陽が見える。 まるでその小さなクリスタルの中に、もう一つ別世界があるかのようだ。 唖然とした状態のノラ。 想定内の反応に、グレンは柔和に微笑んだ。 「クリスタルの中に見える世界、私はエデンって呼んでるの」 「エデンって……楽園?」 「そう。 そしてこの花がスノーウィング。 雪みたいに真っ白で、羽根みたいに綺麗だから」 「それもグレンが付けたの? ネーミングセンス無いね」 「いいの。 他の誰かに話すつもりも無いんだから。 そんなことより、これ一つあげる」 「え? 大事な物なんでしょ?」 「うん。 だからノラにあげたいの。 もらって」 「どうして俺に?」 「……ずっと夢見てた。 このシャングリラのどこかにエデンが在るんじゃないかって。 エデンに行くことが子供の頃からの夢だったの。 馬鹿みたいな話だけど、こんな綺麗な世界が在るなら行ってみたいって思うでしょ? もしエデンが在るなら、ノラと一緒に行ってみたいから」 屈託のない笑顔で、幼子のように無邪気な想いをグレンが紡ぐ。 その笑顔が自身に注がれているのだと知ったノラは、照れ臭さから俯いてしまった。 グレンの温もりが宿るクリスタルを握り締め、ノラの胸中を愛しいほどの幸福感が潤していった。 ノラの口端に灯る笑みを見つめ、グレンもまた一つ笑みを零した。
/112ページ

最初のコメントを投稿しよう!