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星がちらつき、太った青い月がタウンを照らし始める宵。
グレンと別れたノラは帰路についていた。
ノラの自宅は海辺にあるため、時計台からは30分ほど歩かなければならない。
もう幾度となく歩き慣れた道なので、ノラが苦に感じることは無かった。
おもむろにポケットから取り出したクリスタルを、青く光輝する月へとかざす。
案の定そこにエデンは映らない。
月の丸い輪郭が映り込むだけ。
だがノラの脳裏には、先刻グレンと共に見たエデンの光景が鮮明に焼き付いていた。
グレンが想いを馳せる世界に行ってみたいと思った。
毎日家の手伝いをし、グレンと会い、家に帰って寝て、また朝がきて、また家の手伝いをして―――
その繰り返しの日々。
刺激があるわけじゃない、端から見たら何て退屈な日々だ、と思うかもしれない。
でもノラはそんな退屈な日々をわりと気に入っていたりする。
家族が居て、友達が居て―――今が幸せだから。
エデンに行けなくても今の生活が在ればそれでいい。
そう思い、ノラが停止していた足を再度機能させた瞬間―――不可解な感覚に陥った。
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