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1.来談  鏡って怖いと思いませんか? 僕はいつも思うんです。鏡に映る自分は、本当に自分なのかって。だって自分の顔なんて直接見られないじゃないですか。だから、自分の本当の顔を知っている人なんて、いないんじゃないかな。鏡に映った姿だってそうです。あれ、反転して見えてるわけでしょう。写真だってそうだし。  鏡の向こうにはこことは別の世界がある。  こんな言葉を、何処かの民族学者が言ってたような気がする。  そこに映るのは、現実世界ではない。  そう言ってました。  僕もね、子供の頃、鏡にまつわる不思議な経験をしたんです。  十歳・・・・そうそう、ちょうど十歳になった誕生日だったんです。あのとき、僕は父親に連れられて遊園地に行ったんです。母親はいなかったと思う。父親と二人きりだった。  僕は高所恐怖症で、遊園地って全然楽しめないんですよ。ほら、遊園地って背の高い乗り物がたくさんあるでしょう。かといって僕、チキンだからお化け屋敷だってダメだし、メリーゴーラウンドやコーヒーカップでさえ、酔っちゃうから乗れなくて。だから僕、内心ではあんまり楽しくないなぁって。  いきおい、ミラーハウスが数少ない選択肢の一つとして残るわけです。あの日もそうだった。  中には幻想的な光景がありました。そう、幻想的ってのは、ああいうのを言うんでしょうね。辺り一面、色んな方向を向いた僕の姿がある。手を上げると、その像全てが一斉に手を上げた。初めて体験するその異様な感覚に、僕はきっと興奮していたんです。  父は、競争をしようと提案しました。もし僕が父よりも先にゴールすることが出来たなら、好きな玩具を買ってもらえるというのです。その提案は、とても魅力的に思えた。今となっては思い出せないけど、そのときにはとにかく欲しい玩具があったんだと思う。だからすぐに乗り気になったんです。
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