その1

6/8
前へ
/164ページ
次へ
『なによ。だったら、イギリスに自分から会いに行けばいいじゃない』 『そうだね』  またその淡々とした返答が返ってくる。  アイラは口を尖らせたまま、カウンターの上に肘までつき出していた。 『なんで、わざわざマレーシアにまで来るわけ?』 『楽しそうだな。いいな、リゾート地なのか』  へえぇ、とわざとらしいその返答を聞いて、アイラの口がへの字に曲がっていく。 『こんなに親しくなった仲なのに、龍ちゃんだけは誘うけど、俺は誘ってくれないんだ』 『なによ。両親のトコに帰ればいいじゃない』 『そうだね』  んー、とアイラは顔をしかめたまま、溜め息をついていた。 『マレーシアで遊びたい?リゾート地よ』 『いいね』 『だったら、宿泊代から遊び代も全部含めて、今月末までに払わないとダメなのよ』 『そうか。だったら、その詳細をイーメールで送ってくれないか?』 『本当に来るの?実家はどうしたのよ』 『どうして俺だけは遊んだらダメなんだ?』 『そんなこと言ってないじゃない』
/164ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加