18人が本棚に入れています
本棚に追加
************
「私ね、3才の頃に死にかけたのよ。」
金曜日の居酒屋は、ストレスから仮釈放された企業戦士たちのオアシスだ。
戦士ってほどじゃないけど私、雪村縁も会社員。金曜日は大好きだ。
大学卒業後に入社した損害保険会社に勤めて、はや4年。
月の給料は多くはないけど、ウチの会社はボーナスがいい。
女ひとりでだって充分に食べていける。
だから、仕事に大きな不満はない。
小さな不満なら腐るほどあるけど、この暗いご時世、安定した仕事があるだけ幸せだ。
同じ一般職として入社した同期は3分の1が寿退社した。
学生時代の友人たちも、ちらほら結婚・出産してる。
ご祝儀貧乏、26才・・・。
焦りがないと言えば嘘になる。
すみません、今、見栄をはりました。
雪村縁、かなり、焦っております。
その焦りを全て呑み干してしまおうと、本日も芋焼酎をあおっているわけです。
「縁先ぱーい。それ何回も聞きましたよぉ。酔うとその話ばっかり!」
赤い顔をした一年後輩の雅美が、うんざりした様子でこう言った。
「いいや!私は話したことないよ!たとえ話してたとしても、何回だって言うね!
私に男運がないのは、死にかけたせいなのよぉぉっ!
あ、お兄さん!芋ロックおかわりくらさい。」
ちょうど通りかかったバイトの男の子を捕まえて、私はおかわりを申し出た。
最初のコメントを投稿しよう!