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目を覚ますと、いつも蜻蛉ちゃんの顔が見える。おはよう、と言うと、蜻蛉ちゃんはゆっくりとその綺麗な目──とは言っても私とDNA的な違いはない──を開いて、私と同じように口を動かし、おはようと言う。
そうして、私たちは今までずっと変わらない朝のやり取りを交わしてから一日の準備を始めた。
寝起きの悪い蜻蛉ちゃんの髪を結って、服を着替えさせる。
私達だけで部屋を貰えたのは僥幸だったと思う。蜻蛉ちゃんのこんな状態は他のだれにも見せられないし、見られたら困る。
それにいくらそれが蜻蛉ちゃんだと言ったって、姿だけ見ればわたしと何ら変わりは無いのだ。わたしが駄目なのを見られているようで、それはやっぱり嫌だから、わたしはこうして蜻蛉ちゃんの身支度を整えることにいつも腐心している。
「……ありがと」
「いいよ」
軽く返す。いつものようにようやく寝惚け眼をこすりはじめた蜻蛉ちゃんは、いつだってわたしにありがとうを言うことを忘れない。それが彼女の律儀さで、そういうところがわたしはこっそりすきだったりする。
「よし、全部完了!今日も一日元気よく皆を騙そう!」
かくしてわたしたちは、今日も嘘つきを続ける。
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