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「ときに宇波君。この店、何か感じないかい」
「何の事だ。そもそもお前が、無理矢理この店に連れ込んだんだろ」
唐突に切り出された話題をはたき落として僕は不満を述べた。
「おや、これは済まなかった、済まなかった」
勿論奴は僕に悪びれる風など微塵も見せない。
…まあ、雰囲気は悪くない。
店の家具も給仕服も西洋風だが、明かりにはランプに混じって行灯や提灯が、壁にはこけしや水墨画が。
少々物が多い様にも感じられるが、不思議と嫌な気はしなかった。
ただ、この店の客はとにかく騒々しい。
そこいら中から笑い声が響き、皿や瓶が飛び交っている。
こちらに飛んで来ないだけマシだが、割れる数が半端じゃない。
そこいらの祭りなどお呼びでない程だ。
「…ておるのです。然るに、此の世の中ぁー…」
「お、見てみろ宇波君、君の大好きな路上演説だよ」
耳聡いヤツめ。
見ると、一人の四十路がらみの男が、椅子の上に立って何やら大声で叫んでいる。
酔いどれ共がその周りを囲んで囃し立てていた。
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