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ぼくは手の中の注射器を握りしめる。
彼女を救う唯一の手だてを握りしめる。
「アカリ……」
その名を呟くたび、不思議と力が湧いてくる。
空元気なのは間違いない。
けれどそれでも構わなかった。
ぼくは、とっくの昔に決めていたのだ。
彼女のために、生きていくのだと。
身体を動かすと、骨が軋んで肉はひきつれた。
関節は固く、石のようだ。
けれど行かねばならない。
――もう時間は残されていない――
なぜこんなことになってしまったのか。
ぼくには分からない。理解しようもない。
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