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銀色の髪をした少年の声が聞こえる。
霞んでいく視界の中、あたしは唯一動く眼球で声の主を探した。
でも回りには、白い服を着た人達がぐるりと取り囲んでいて、その外側の様子は全く見えない。
その人達が放つ質問に、あたしはただ答えていた。
耳から入った言葉が複雑な数式に変わって、絡み合って、答えになって、あたしの口から出ていく。
でも、数字の海に飲まれながら、あたしは少年の事を考える。
──……何処……?
体から意識が剥離していく。
感覚が希薄になって、どんどん消えていく。
自分の体なのに言うことを聞かない。
もう眼球さえも動かなくなり始めていた。
──……もう……だめ……。
思考が体から離れていく。
この世界とは別の場所に運ばれる。
でも、感覚が途切れそうになった最後の瞬間、少年は白い服の人達を掻き分けて、あたしの目の前に現れた。
その表情は必死で、鮮やかな銀の瞳からはポロポロと涙が零れていて。
少年の口が動く。
名前を呼ばれた気がした。
でも、その言葉はあたしの脳には届くけど、意識までは届かなくて、だからあたしには聞こえなかった。
少年が、白い服の人達に埋もれていく。
見えなくなっていく。
でも、強制的に答えを紡ぐ口の主導権をギリギリ最後で取り戻して、あたしは言う。
「待っ……て……て……」
それだけしか、言えなかった。
視界はもう真っ暗だった。
届いたかどうかは分からなかったけど、彼はきっと解ったと思う。
いつの間にか、あたしの体は沢山の星が散りばめられた宇宙に浮いていた。
前にも何度か見た、この景色。
でも今回は一つ、違うことが合った。
意識が融けていく。
暗い宇宙に、ほどけてバラバラになって、消えていく。
でもやっぱり、あたしは別の事を考えていて、自分の意識が融けていくことなんてちっとも気にしていなかった。
──……また、会えるかな……?
あたしは意識の最後の一欠片でそんなことを考えて、そして。
あたしの意識は、この宇宙に融けていった。
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