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確かに、灯は昨日からとても楽しみにしていた。
見てるだけで分かるくらいに呆れるほど上機嫌だった。
だが、今の所想像していた程楽しんでないのだろう。
そこまで気付き、俺は小さく溜め息を吐いた。
後ろから小突く。
「ホラ、ちゃんと歩け」
「やだ」
完璧に拗ねている。
「確かに、楽しく過ごせてるとは言い難ぇけどさ。まだ半日あるんだから、ガッカリするにはまだ早ぇだろ?」
「…………」
灯が俺から離れ、隣に移動する。
その手が伸びて、俺の右手を握る。
まだ顔は不機嫌だ。
「そこまで言うからには、わたしを楽しませる自信があるんだよね?」
その質問に対して、俺の答えは一言。
「もちろん」
その言葉で、灯の不機嫌顔は多少緩和された気がした。
「じゃあ、エスコートしてもらおうかなー」
いや、恐らくもう機嫌は直っている。
言葉にトゲトゲしさが無い。
拗ねているフリをしているだけか。
──本当に子供みてぇだな。
思わず、笑いが漏れる。
すると、灯の鋭い視線が突き刺さった。
「なに笑ってるの?」
「いや、別に?」
言いつつ、笑ってると、ジーンズに入っていた携帯電話が振動し始めた。
「ん?」
ジーンズから携帯を取りだし、開く。
ディスプレイには「黒柴 星」とある。
出てもいいか?、と灯に視線で聞くと、
「好きにすれば?」
と答えが返ってきた。
電話に出る。
「なんだよ?」
『やぁ、宇宙。暇かい?』
「取り込み中だ」
電話から聞こえてくるのは長年共に過ごして来た親友、黒柴 星の声だ。
星は、合点がいったように呟く。
『ああ。デートか』
「違ぇよ」
『え?でも昨日、杏香が灯ちゃんと電話してそんな事を話してたよ?』
「…………」
思わず、黙りこむ。
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