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「ごめん。ちょっと急患が入って、朝からずっとオペ室に籠りきりだったんだ」
そう言いながら部屋に入って来たのは襟にかかるくらいの長さの艶やかな黒髪の下に、疲労の色を覗かせる少年だ。
縁無しの眼鏡を掛けたその顔は美形と言ってなんら問題は無く、来ているのは白衣にレモン色のYシャツ、そして灰色のボトムス。
好きな黒の服は今は来ていない。
黒や白といった無機質な色より黄色やオレンジ等の明るい色の方が患者に良い影響を与えるらしい。
真偽の方は不明だが。
この少年の名は、
黒柴 星(くろしば しょう)。
俺の親友であり、無免許で外科手術を行う阿呆だ。
星は淀みない足取りで、自分の席に座る。
そして、窓際に座るイチを睨み付けた。
「二ノ前、病院は禁煙だ。今すぐ消せ」
対して、イチは舌打ち。
火を消しつつ、窓の外にタバコを窓の外に放り投げて言う。
「オメーこそ人を呼び出しといて遅刻してんじゃねぇよ」
「ああ、そうだね。……じゃあ、話を始めようか」
イチを軽く受け流しつつ、机の上にある綺麗に整頓されたファイルを星は手に取った。
「二人とも、そこにかけて」
差されたソファに、俺とイチは並んで座る。
「まずは、この資料を見て貰えるかな」
そう言って、星はファイルのページを開いて、ソファの前にある小机に置いた。
「いや、待ってくれよ、星。とりあえず、なんで俺達を呼び出したのか説明してくれ」
「それはおいおい説明するよ。まずはこれを見て」
言われて、ファイルに目を移す。
ファイルにあったのは、赤い点が幾つか印された日本地図と住所のリストと数枚の写真。
ただ、住所のリストの方へは一列を除いて、斜線が入っている。
「なんだこれ?」
「これは江島製薬の極秘研究施設のリストだよ」
「……極秘研究施設?」
星は頷く。
「うん」
「なんで、お前がそんな物持ってるんだ?」
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