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「江島 奥介(えじま おうすけ)の扱っていたデータベースの最深部にあったんだ」
「……へ?いや、でもそれって……」
前に星から話だけは聞いた事がある。
俺が入院していた頃、星は『Gray-goo(グレイ・グー)』を完全に停止させる方法を探そうと躍起になっていた。
『Gray-goo』というのは三年前、地球上の人類の大半を死滅させた人類補食型ナノマシンの総称だ。
人類を完全に絶滅させる為の最終フェイズ、『Gray-goo-γ』へのアップデートの際、星はそこに無理矢理割り込んでプログラムの一部を書き換える事でなんとか人類の絶滅を阻止した。
しかし、星曰くそれは「その場凌ぎ」に過ぎなかったらしい。
『Gray-goo』は製作者によって構造を極めて生物的に造られている為か進化の可能性をその内に秘めている。
このまま放っておくと、いつまた驚異となってしまうか分からない状況だった。
結果的に星はその後、『Gray-goo』を完全停止させることに成功するのだが、その方法を調べている際中、妙なデータを見つけたという。
江島 奥介のPCのデータらしいのだが、恐ろしい程強固なセキュリティに覆われていて、星でも手が出せなかったとのこと。
「……一体、どうやって取り出したんだ?」
俺の疑問に、星は少し得意気な顔をして答える。
「仕事の合間に少しずつ解いていったんだ。三年かかってやっと完全に突破出来たんだよ」
その言葉にイチが呆れたように呟く。
「センセー、意外と暇なんだな」
「……」
辛辣な言葉に星がイチの方を向き、二人の目が合う。
俺には、目の前の天才達の間に見えない火花が散っているように見えた。
「……まぁ、そういう訳で手に入れたのが、このデータなんだけどね」
イチから目を剃らした星がペシッ、と指でファイルを叩く。
見えない戦いは終わったようだ。
どちらが勝ったのか、俺に知る術は無い。
「早速、調査隊を編成して調査しに行って貰ったんだ」
すると、イチが眉をピクリと動かした。
「……そういや、前に自警団の人員が足りなかった事があったな……あれか」
「うん、それ」
「オメー……おれ達をなんだと思ってやがる……」
イチの呆れきった言葉。
しかし、星は全く気にしていないようで、涼しい顔をして続ける。
「そしたらね。……ちょっと、このリストを見て貰えるかな」
そう言って、今度は住所の書かれたリストを指差した。
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