12人が本棚に入れています
本棚に追加
光の加減で入り口を見た限り、どうやらここは土倉らしい。
ゆっくりと近付いてくる人影は、二人とも着物姿、袴も着ている。
脇には二人とも太刀と脇差しの双振り。
淡くぼんやり見えはじめた行灯を持っている方は、少し細身で。
けれど、なよなよした感じではなく、まるで柳の葉…と、でも言うか。
しなやかな鋭さが滲み出ている。
歳は俺より、三つ、四つ上だろうか?
長い黒髪を上で結い上げ、いたずらっ子みたいな笑顔のその人は。
俺と目が合うとにっこりと目を細めた。
…なんか、優しそうな人…
その隣に居る、長身で黒髪を首の付け根辺りでくくった人…。
不機嫌そうな鋭い眼孔で睨まれてんだけど、かなり美丈夫。
つーか…なんか、見覚えがある…ような…?
目をぱちぱちしてから、少し闇に慣れた目で見つめ返していると。
「土方さん、この子です、空から降ってきた子」
「…ぇ…?」
「…本当に降ってきたのか、総司?ただの小汚ない乳臭いガキにしか見えねぇぞ…」
土方さん、て…呼んだ?
この怖そうなお兄さんを、土方さんって…
「…土方、と…ぃぞぅ…?!」
「…!ほぅ、俺の事を知っているのか?ガキ」
掠れた声で呟いた名前は、当人には聞き取れたようで。
一度鼻で笑うと、眉を八の字に寄せて一歩近付いてくる。
おいおい…なんの冗談だよ、これ…
髪を切った、洋装の写真しか見たことなかったから気が付くのが遅れた。
確かにこの人は、信じられないけど…土方歳三。
鬼の新撰組副長。
じゃあ、こっちの人は…
「…沖、た…そぅ…ぃ?」
「ありゃ…私の事もご存知なんですかぁ?」
否定しない、って事は間違いなく。
多分、本当にご本人様。
清水の舞台から落ちたら、なんとそこは…
幕末でした、なんて…あり?
神様、仏様、俺はいったい…どうなるんですか?!
神様、仏様、誰でもいいから助けてー!
最初のコメントを投稿しよう!