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「私、もう耐えられない」
ある休日の午後、妻が叫んだ。ベランダで腰掛けに座り、日光浴を兼ねて読書を営んでいた私は、読みかけの本に栞を挟み妻の方を見た。
「いったい、どうしたと言うのだ?急に声を上げたりして、近所に聞こえるだろう」
「そんなことは、どうでもいいわよ。私はどうしても、アレに我慢できないのよ!」
妻は声を荒げて、普段は鍵をかけている離れを指差した。指差された離れを見て、私は嫌な気分になった。さっきまでの優雅な一時を忘れてしまうぐらいに。
「なんて、嫌なものを思い出させるのだ。私は今日一日、ゆっくりと本を読み過ごしたかったのに。キミのせいで思い出してしまったではないか」
「男はいいわよ。アレのことは簡単に忘れられるから。だけど、女である私からしてみれば、買い物をしていても、習い事をしていても忘れられない。ずっと、脳裏に焼き付いて離れないのよ」
「気持ちは分からないことはない。だから、お互いにアレのことは話題にしないよう、過ごしてきたじゃないか。キミだけが、あれに嫌悪を懐いている訳ではない。私だって、できることなら、家から追い出してやりたいし、焼き払い地面に埋めてしまいたいと思っている。しかし、それは叶わないことなんだ」
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