醜男

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「だけど、私はもう限界よ。離れに閉じ込めているとはいえ、アレと同じ敷地、同じ空気を吸っていると思うだけで吐き気がしてくるわ」 「だったら、どうすると言うのだ?」 「警察を呼ぶのよ」 「警察だって!」  妻の言葉に思わず驚いた。アレのことは今まで、私達だけの秘密にすることで平穏を保ってきた。それを、わざわざ、警察を呼び世間に晒すような真似をすると言うのだから。 「キミは本気で言っているのか?我が家の秘密。それを警察に晒すなんて」 「大丈夫よ。警察でも、家庭の細かい事情まで聞こうとはしないわよ。それに、家には金が有り余るほどあるでしょう。これは、犯罪ではないのだから、金でも握らせれば、黙っていてくれるわよ」 「うむ。確かに悪いのは私達ではない。しかし・・・」  いくら金を渡して口を封じるとはいえ、アレを晒すことに私は抵抗感があった。そんな私の意見に、聞く耳などもたない妻は、さっさと電話をかけ警察を呼んだ。  警察の方でも驚くだろう。県でも有数の資産家である私達の家からの直々の呼び出しなのだから。普段なら近くの交番で勤務している警官を派遣するのだろうが、この日ばかりは県警でも、上層部に位置する警官がやってきてくれた。その方が都合がよかった。上層部の人間ならば、同じ穴のムジナだ。信用ができる。 「それで、いったい、何があったのですか?泥棒ですか?詐欺ですか?」 「いえ、そういう訳ではないのですが」  私と妻はこの警官にどのようにして事情を説明したら良いのか悩んだ。いざ、説明しようとすると言葉に困るからだ。 「実際に見てもらった方がいいと思います。来てください」  私は覚悟を決め、警官に我が家の秘密を晒すことにした。妻ほどではないが、私も内心ではアレに手を焼いているのだから。  応接間から警官を連れて、離れまで向かうと、離れの鍵を開ける前に、 「いいですか?くれぐれも、このことは内密にお願いします。決して関係者以外に話さないでください。私達にも世間体というのがありますから」 「分かってます。警察は秘密厳守です。家庭の事情を他人に話すような馬鹿な真似は致しません」 「では、お願いします」
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