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「私が頼んだとはいえ、所詮はお役所の仕事ですからね。アレを追い出せるかどうか」
「今、数名の信頼できる捜査官を連れてきて、一緒にアレを強制的に運び出そうとしているだが、上手くいかないだろう」
「そうね。アレを運び出す、追い出す為に私達はあらゆる手段を使ったけど、結局、失敗に終わったし」
私達は警察に電話する前から、自分達に出来る限りのことをしてきた。しかし、アレを追い出すことはできなかった。警察ならば、私達とは違った視点でアレを追い出してくれるのではないかと、少しは期待しているが、常識に縛られた彼らにそれが可能か、不安に思わずにはいられない。
「何だ!これは、ビクともしないじゃないか!」
「お前!いい加減に、この家から出て行け!」
離れから警官達の怒声が聞こえてきた。声からして成果は上がっていないようだ。
嫌悪を堪えて、運びだそうとしているようだが、動かない。どうやら、アレはまだ当分の間、ここに居座る気でいるようだ。
アレを運び出し、二度とここに戻らないようにしてくれるのならば、如何なる礼だってする。それこそ、我が家の幸福を差し出してもいいぐらいだ。
何故なら、アレが皮肉にも我が家の幸運であるからだ。つまり、福の神なのである。何故、我が家の福の神が、あんな醜男であるのか分からない。いつから、私達に憑いていたのかも分からない。幸運を自覚し始めた頃から、アレを認識できるようになったのだから、きっと前々から憑いていたのだろう。
私達は十分な資産を得た。無茶な遊びをしなければ、底を尽きるということはない。だから、あの福の神はいらないのだ。しかし、アレは未だに居座り、私達に幸運をもたらし続けている。
「どうして、こんなことになったのかしら。福の神が、あんな醜男だなんて」
「さぁ、理由は分からないさ。神の世界にも色々と事情があるんだろう。もっとも、アレと幸運が釣り合うとは、到底、思えないけれどな」
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