さくら散る季節

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「えっと、すいません…」 四日市の海蔵川の堤防添いの桜の通り抜けを歩いていて、声をかけられた。 振り返ると、知っている顔だった。 「お久しぶりです」 「久しぶり…ね」 無邪気に声をかけてくる彼に、とりあえず微笑む。 「大人になったわね。見違えたわ」 風に舞う桜の花びらが、カーテンのように私たちの間で踊る。 「ありがとうございます」 はにかむ顔は、昔とあまり変わらない。 若かったから恋をして、若かった別れた昔のカレ……。 『お互いに次に出会うとき、もしまた恋に落ちたら結婚しよう』 そんな約束をして、喧嘩ばかりの付き合いを終わらせた。 お互いに好きだったのに、譲り合うことができなかった。 「今、幸せ?」 桜を見ながら問えば、 「まぁ、それなりに…」 と、彼の頬に朱がはしり、薬指に鈍く輝くリングに気がついた。 あぁ、結婚したんだ…。と、思った。離れていた歳月は短くなく、私の上にも、彼の上にも時間も出会いも流れていく。 「あなたは?」 そう問う彼に、 「それなりよ」 と、笑っていった。 END
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