第一章 箱庭

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黒いヌメヌメとした光沢のある表面。全体的に半分液体状に見えるソレは、木々の間をスルスルと滑るかのように近づいてくる。 外形はコケシのようだか体長は2メートル程はあり、身体は地面に近づくにつれ溶けだすかのように広がっている。よく見ると無数の触手のようなものを地面に這わせ、身体を運んでいるようだ。 「なッ!!」 ソレを見て思わず身体が凍りつく。得体のしれない存在。恐怖と嫌悪感が身体を縛り、動きを制限する。 暗がりに同化して気づくのが遅れたのか、既に距離は5メートルほどだ。 明らかにソレはこちらに気づいている。コケシの頭になる部分をこちらにもたげ、一直線に近づいてくる。 のっぺらとした顔の表面が中心から螺旋状に波打つと、その向こうから大きな口が現れる。腐肉のような色をした歯茎には数え切れない程の鋭利な歯が備わり、クチャァと糸を引きながら口を開ける。 ――一瞬視界の隅でブレスレットが光を放った。その光でようやく我へとかえり、急速に自分の危機的状況を理解した。 俺はなり振り構わずに必死に足を動かすと一気に駆け出した。 逃げる算段がついている訳じゃない。ただ防衛本能がその脅威から身体を逃がしたに過ぎない。
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