第一章 箱庭

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アレは一体何だ!あんな気色の悪い生き物見たことない……。 耳に聞こえる音は自分が地面を踏みしめる音と身体が葉を掠める音だけ。それでも後方から感じる気配は消えることはなく、着実に距離を詰めてきているのが分かる。 来るな、来るな、来るな! 心は恐怖に支配され、後ろを窺うこともできない。目の端には思わず涙が滲む。次第に周囲の音も掻き消え、自分の荒い呼吸音だけを耳でとらえる。 「がッ!!」 ふいに左半身を襲う今まで受けたことのないような衝撃。トラックに撥ね飛ばされたかのように身体は宙を舞い、一度大木にぶつかると地面に引きずられるかのように転がり、うつ伏せに止まる。 「……あっ……ぐ……。」 うずくまるように身体を縮めた後、痛みに耐え何とか両手を踏ん張り身体を起こそうと努力する。腕は激しく痙攣し、身体には針で刺すような痛みが絶え間なく走る。 イタイ……痛すぎる……。 それでも何とか身体を起こし顔を向けたその方向――。ソレはビチビチと音を立て、左半身から伸びる様々な大きさの触手を波打たせていた。 何だよ……。何なんだよあれは……。 奥歯がガチガチと音を立てる。 既に立ち上がり走り出す猶予も余力も無い。ソレもそれが分かっているのか、ゆっくりと距離をつめてくる。 それと同時に段々と脳を取り巻く死の予感。 嫌だ……。死にたくない……!
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