第一章 箱庭

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山の中の道なき道を行く。とは行っても背の高い木々が多いせいか、それほど歩きにくいと言うことは無い。 湿り気のある地面を踏みしめ、たまに木々の間から見える光射す方向へと歩みを進める。そう遠い距離ではない気がするが、自信は持てない。 どれほど歩けばいいのか。そんな不安を心に感じる一方で、身体は驚く程に軽かった。 さっき水面に叩きつけられた時も感じたけど、何だか身体が強靭なものになっている気がする。これもこの世界のおかげなのかな。 今のところ違う世界に来たという実感は無い。山道だって特段違和感を感じるような点は無い。違いがあるとすれば――空か。 灰色に染まる空。雲で覆われてるという訳ではなく、灰色のペンキで全面を塗りたくったようなそんな空。 太陽も見当たらないが夜のような暗さではなく、曇りの日のような暗さ。ただ、今歩いている山道は木の影のせいで日が落ちた時のようになっている。 ――そんな不思議な空の様子を見上げた時にだけ、心細さで締め付けられるような感覚にとらわれる。心の奥ではこの世界が自分がいた世界と違うことはおそらく理解出来てるんだと思う。 ここにたどり着くまでにも常識では考えられないようなことを経験してきたのだから。 それでも。そんな世界だからこそ。希望もある。
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