陸に上がる

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 振り返った眼前には広い砂州が広がっています。しばらく行くと地面は盛り上がり、自然の堤防を築いています。  その一画はけぶるような黄色で覆われています。このときのハルヤにその名を知るはずもありませんが、それは菜の花の群生でした。 「まずはあそこを目指そう」  ルルは小さな胸びれで菜の花の辺りを指しました。反対するはずもなく、ハルヤは穏やかな春の夜にふさわしいおっとりした表情で頷きます。  細かい薄水色の鱗で覆われた二本の脚でハルヤは砂州を歩きます。初めての感触に足をとられて何度も転びそうになります。そのたびに彼は笑い出し、ルルは怪訝な顔で文句を言いました。 「気を付けてくれたまえ。この海水がこぼれたら、私は生きられないのだから」 「不便だな」  ルルは軽く息を吐いて、胸を張ります。 「そんなことはない。私は水の中でしか生きられない、つまり、水中が私の場所だということだ。君はどうだ、水中でも空気中でも生きられる。どうにも節操がないじゃないか」 「自由だべ」 「自由というのはだな、制約があってこそ初めてありがたみを持つのだよ。どこでも生きられるというのは、収まる場所がないということだ」 「そんでもいいべ。おら、この先で収まる場所を探すだ」  黄色い花を揺らす風がハルヤの体から水分を奪っていきます。ハルヤは肌が乾燥していく初めての感触にこそばゆさを覚えながら、両腕を大きく広げました。 「風って気持ちいいだな」 「共感はしかねる。それより手を……振り回さないでくれ」
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