祝いの肴

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 月がいったんまん丸になったあと、徐々に欠けてまた三日月になりました。  青黒い鮫肌を隠すために巻いたスカーフからちょっと口元を出して、ハルヤは嬉しそうに言いました。 「やあ、お月さんが鱗の形だ」  聖杯ごと背負われたルルは、同じ方を見てから鼻をふんと鳴らしました。 「珍しくもない。月なら王宮にいても見ただろう」  二人は街に入りました。広い街で外側はさびれていますが、中心部には建物が多く、夜中でも煙突から煙が上がっています。  その晩はちょうどお祭りでした。みんなは通りに出て、時計塔が〇時を打つのを今か今かと待ち構えていました。  やがて厳かな鐘の音が街中に響き渡りました。皆それを合図にいっせいに歓声を上げます。陽気な音楽が流れ、あちこちで若い男女が踊り出しました。  辻では人形劇の屋台が出ています。催しているのは破れたコートをまとい片目がつぶれた不気味な男ですが、集まった子供たちは期待と好奇心を湛えた瞳で、熱心に彼の演技を見つめました。 「賑やかでいいだな」 「我々には関係がない。目的を忘れないでくれ」  ハルヤは止めた足を再び動かし始めました。劇は、偉い博士を悪魔が誘惑して災いの杖を渡そうとする場面でした。子どもたちが高い声で叫びます。ハルヤは軽く肩を竦めてほほえみました。
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