祝いの肴

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 無邪気に騒ぐ子供たちをよそに、仕事を離れられない子供もいました。  グッグは街の真ん中にあるお城にいました。グッグはテーブルの下にうずくまって、白いチェスの駒を持っています。それが彼の仕事でした。  テーブルを挟んで向き合うのは、白いあごひげを垂らした威厳ある王様と、王様の幼い息子です。二人は上等な紫の服を着て紫の帽子を被っています。一方でグッグは何も身につけていませんでしたが、頭からお尻にかけて硬く青黒い皮膚に覆われていました。  グッグはこの地では珍しく、ハルヤと同じ種族の子供でした。  ゲームが終わりました。テーブルの上で幼い王子が癇癪を起こします。王様は今回は負けてあげませんでした。王子が投げた駒がグッグに当たります。軽い痛みなど気にならず、グッグは内心でほっとしました。グッグは、王様の方の駒を持っていたからです。  テーブル越しに王子の方の駒持ちを見遣ります。こちらもグッグと同じく青黒い鮫肌の子供でした。その顔は無表情のまま青ざめています。目が合います。グッグはあわてて下を向きました。  割れるような大きな笑い声が響きました。王様です。 「いい試合だった。さて、肴が決まったところでささやかな宴といこう」  部屋の隅で待機していた白い調理帽の二人が、大きなお盆を持って鮫肌の子供に近づきました。子供はおとなしくそのお盆に乗りました。これから調理され、王様の家族と大臣たちに振る舞われるのです。  王子は負けたことが悔しくて泣き出しました。高い天井に響く大きな声です。見守っていた大臣たちがなだめる笑顔を向けます。赤ん坊を抱いた王妃が歩み寄ります。彼女はやさしく大らかな仕草で、 「さあ、向こうの部屋へ行きましょう」  と、息子の肩を抱きました。  遠く建物の外から花火の音が聞こえてきます。人の声も聞こえます。その声は酒の匂いの混じる春の夜風に浮かれて、 「王様、ばんざーい」  と叫んでいました。  グッグは調理場の片隅にある水槽に戻りました。そこにはもう二人、同じような子供がいました。誰も何も言いません。二人はグッグが一人で戻ってきたのを見て、何かを納得した様子でした。
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