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ハルヤとルルは、世界一の技術を自慢する職人に出会いました。
「俺が作る留め金は世界一だ。どんな大地震が来たって、俺の留め金で留めた家具は絶対に倒れない」
ハルヤは感心して、工房を見学させてもらうことにしました。そこは狭く、機械がごちゃごちゃしていました。機械はたくさんの歯車が回って動かしています。
中央にひときわ大きな歯車がありました。直径が人の背丈ほどもあります。それは錆びた銅製の歯車で、年老いた風情です。
ハルヤは王宮の「年寄り」を連想しました。「年寄り」というのは役職の一つです。何でも知っていながら目立つことなく陰から王族を支える人。優れて上品で賢い人たちです。王宮の者はみな「年寄り」を尊敬していました。
ハルヤは水かきの付いた手で、でこぼこした表面をそっと触りました。
「きれいだな。……お天道さんみてえだ」
「そうかい?」
職人は意外そうに首を傾げました。機械から出てくる新品の留め金はぴかぴかと輝いて滑らかです。それに比べると歯車はどれも古くてくすんでいました。
「だって、この歯車がなかったらこの機械は動かねえべ?」
「そうだけれども、あんまり古いから、いい加減入れ替えたいと思ってたんだ。もう寿命だよ。旅人さん、もしいい機械屋さんを見つけたら教えておくれよ。俺は歯車は作れないんでね」
ハルヤは軽い約束をして工房を出ました。
暮れかかるホトケノザの丘を歩きながらふと呟きます。
「古いと……邪魔にされるだな」
「何が言いたい?」
背中でルルが不機嫌そうに聞きます。ルルは「年寄り」でした。
「いや、別になんも。……じいさんが邪魔にされたんは、古いからじゃねえべ。他のじいさまよりしゃべりすぎてうるせえからだ」
ルルはわざとらしく大きな溜息をつきます。
「誤解があるようだな、若造よ。私は邪魔になどされておらん。人には役割がある。私はあの役を務めるには大きくなりすぎたんだ。こう言ったところでお前さんにはわからんだろうが……」
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