約束の、向日葵

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その時、にわかに、 黄昏近い為か、黄金の光をまとった 羽根のような雲が、淡い青空に広がり始め、 カゲヤマと向き合った蔵元の時間は、止まったようになり 食い入るようにカゲヤマを見つめると、 沢野が、 「蔵ちゃん、 その節はこの子がお世話になりました、 ごめんねー、この子、 ご存知とは思うけど、小さい頃があまりにも 壮絶なもんだから、記憶が時々抜けててね、 でも、そこの広大な向日葵畑見て思い出したみたいなの。 まあ、食べ物が絡むと思い出すの 早いんだけど、ねー。 まさかおにいたんが、蔵ちゃんだったとは。 ………ホレ、感動の再会だし、 カゲコ、行って来なはれ!。」 カゲヤマの背をさりげなくとんっ!と押した。 「きゃっ!」「わっ!」 反射的にカゲヤマをうけとめた蔵元は、 信じられないこの再会に、しばらく言葉を失っていたが、 色んな感情が、徐々に戻ってきたのか だんだんと涙を溢れさせながら、 カゲヤマをしっかりと抱き締めた。 「ごめんな………、なっちゃん、 そうなのか………君だったんだ。 なんてことだろう……………。」 カゲヤマは蔵元の、ごめんという言葉を 打ち消すように、首を左右に振り、 「おにいたん、…………ただいまです。」 「おかえり。 ずいぶん捜したんだけど、 こんな、 こんなことって…………。 でも、本当に、 幸せでいてくれて、よかった。」 矢島たちや園長のその目は優しく、 ようやく巡り会えた二人を温かく 包んでいるが、 「あ」 矢島が小さく叫んだ二人の背後には、 柔らかい虹の帯が、向日葵畑から広がり始め、 その光が始まるたもとに、 人影が見えた。 「あれって」 黒澤が、目を細めながら見つめると、 沢野が 「綺羅くんと、タッキー?。」 矢島は微笑みながら、 「あの二人から、虹が上がってるな。」 綺羅は、 自分に釘付けになっている多岐川に、 不思議そうに話しかけたのだが、 「………綺羅、………背中。」 「えっ?。」 多岐川の瞳には、 青空をバックに、 大きく翼を広げたような雲を背中に携えて、 天使そのものの姿に見える綺羅の姿が 刻み込まれていた。 「綺羅………、 天使みたいになってる……。」 綺羅もその言葉に驚きながらも、 ふっと、あの日、向日葵に約束したことを 思い出し、目を細めていた。 『泣いてるあなたを守る、 いつか天使になりたい』と。image=488966813.jpg
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