33人が本棚に入れています
本棚に追加
どうやらオレは、この世界で『アスナ』として生きていくことになったらしい。
神様が言っていた転生とは、そういうことなのだろう。
…赤ん坊からでは無かったか?………まぁいいか。
「あなたもそんな風に軽口を叩けるようになったのね?……素直なだけじゃ生きていけない。よく考えてるじゃない」
優しい眼差しでオレを見つめる母親。
彼女の手のひらから伝わる体温は、とても……暖かかった。
「えへへ…お母様!早く帰りましょう!日が暮れてしまいます!」
『アスナ』は嬉しそうに、楽しそうに母親を引っ張る。
もっと遊びたい。もっと甘えたい。もっと、もっと。
そんな『アスナ』の感情が、直接流れ込んでくるような感覚。自分まで嬉しくなるような、ただただ純粋な『幸せ』。
(オレは今から…この子の幸せを奪うのか…)
そう思ってしまうのは、恐らくオレが『アスナ』として生き始めたら、本当の『アスナ』は、消えてしまう気がしたから。
この子の思い出が、幸せが。
(神様ぁ…あんた、綺麗な顔してやることえげつないな。オレにゃこの子の幸せを奪うなんて出来ねえもん)
え?不良が何言ってんだって?
不良に良心があっちゃ悪いかよ。
まぁそれは置いといて、だ。
今、アスナが母親と二人で歩いてるこの道は、絶対に覚えておかなくちゃな。
アスナがいなくなって、オレが生き始めても、オレがアスナを忘れないように。
そして今はただ……幸せな親子を見守っていよう…。
――――――
最初のコメントを投稿しよう!