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新宿駅からアルタを正面に見やり、左方向へと進んで行く。
緩い坂道を下りながら、人の波をリズム良くよけて歌舞伎町を突っ切って歩いた。
昼間の歌舞伎町は、どこか寝起きの女性のような気だるさを思わせる。
歌舞伎町を抜けて、西武新宿線の新宿駅から新大久保駅の間。
都会の雑踏から忘れられたように、住宅が並ぶ一角。
その片隅に、一件の喫茶店がひっそりと営業をしている。
昔ながらの佇まない、重圧そうな木の扉と、『OZ』と書かれた看板が目印だ。
今風で言うなら『隠れ家』的な店構え。
眠らない街を間近にしながら、切り離されたような別空間。
カウンターの中では、口髭を生やした男性が、暇を弄ぶように新聞を広げている。
「…そろそろかな?」
チラッと壁に掛けられた時計を見やり、男性が呟いた。
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