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「そんな…装填者は大石楓…」
液晶モニターに表示された結果を見た猫田は、自分の推理が外れたことに驚き言葉を失う。
「装填者は楓君だったのですか?」
僕がそう聞くと、楓もバッタが弾の位置を見事に的中させたことが信じられずに、ただ静かに頷くことしか出来なかった。
「おめでとう楓君。あくまでもリハーサルでだが、君は装填者として最も理想的な展開を成し得ることができたね」
バッタはリボルバーをテーブルに戻して、嫌味ったらしく楓に拍手を送る。
確かに装填者の楓からすれば、この展開は一番の理想。
バッタの発砲ペナルティ、更にバッタ以外のプレイヤー全員のパス代を独占、装填者が一回のゲームで稼ぐことが出来る最大の釈放時間、12時間を手に入れたのだから。
でも、このゲームのコツを掴み素直に喜べる内容では決して無かった。
むしろ発砲したはずのバッタが、このゲームに流れる空気を一瞬で、全てを掌握してしまっていた。
『それではこれでリハーサルは終了、このリハーサル結果は全てリセットされます。そして本番では今の流れを前半、後半の合計12回繰り返してもらうことになり、皆様には是非パーフェクトプルを達成し、十分な釈放時間を全員で稼いでもらうことを願っております』
パーフェクトプルの達成、その言葉が何処か遠くのもののように聞こえる。
あまりに後味の悪い終わり方。
バッタが何か企んでいることだけが、はっきりと浮き彫りとなって、僕は再び過酷な騙し合いが繰り広げられることを確信した。
『ではルール説明やリハーサルが長くなってしまったので、只今より10分間の休憩を挟みます。皆様にはそれぞれ個別の休憩室を用意し、簡単な軽食やお飲み物も揃えてあるので短い時間ですが、本番に備えおくつろぎ下さい』
ベアーは僕と楓に休憩室の場所を伝える。この部屋の周りを囲む六つの木製の扉、その一つ一つがプレイヤーたちの休憩室となっているらしい。
椅子から立ち上がり、それぞれ与えられた部屋へと向かって消えていくプレイヤー。その足取りはやはり重い。
僕と楓もそれに続いて自分たちの休憩室へと向かう。楓は一言も口を開かなかった。
「では皆さん、10分後、楽しい楽しいゲームで遊びましょ」
ただ一人、休憩室へと向かうことなく椅子に座り続けるバッタは、不気味な笑みを浮かべながらそう言って、僕の鼓膜に彼の声がこびりついては離れなかった。
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