3.視覚

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「なんでだよ・・・」 ずるりと地に落ちる細い腕、その先に握られたリボルバーが糸に吊られたようにゆらゆらと宙に揺れる。楓はもう一度その言葉を繰り返した。 「おっと失礼しました。あまりにスムーズに事が運んだのでついつい笑いがこぼれてしまいました」 灰島は悪びれもせずそう言う。 なぜ灰島が裏切ったのか、そもそも自分の順番を知らないのにどうやって裏切ったのか。人は人のことをこうも簡単に裏切れてしまのか。息を吐くように嘘がつけてしまうのか。 様々な疑問が脳の内側から溢れだし、まっとうな思考を悪戯に侵す。 「でもどうか私のことを恨まないで欲しいです。だってこのゲームは人に発砲をさせるゲーム。ただ単純に私はそのゲームに乗っかったまでのことなのですから」 「ゲームに乗っかったって・・・」 「このゲームは前半戦で一回、後半戦で一回しか装填者になることができない。そして、釈放時間を唯一安全に稼ぐことができるそのチャンスを絶対に無駄にすることはできません」 「それは違います。パーフェクトプルを達成して、全員で時間を稼ぐことがこのゲームの正解なはずです」 僕は灰島の言葉に言い返す。 「装填者になれる回数よりも、装填者ではない回数のほうが多い。ならば一時の欲に身を任せるよりも、確実に毎回パーフェクトプルの達成を目指したほうが利口なはずです」 でも僕の言葉に灰島は静かに首を横に振る。 「勿論理想はその通り、ただあくまでもそれは理想。誰かひとりでも裏切った時点で、その理屈は破綻する。そして、私が思うにそこのバッタさんは端からパーフェクトプルなど眼中に無いように思えた。だから私もチャンスを無駄にはしなかったわけです」 その通りとでも言うように、バッタはにんまりと唇を吊り上げる。 「あんたは分からなかったはずだ、自分の順番を。なのにどうして弾を込められたんだ・・・」 楓は銃口の先からこぼれる硝煙のように、今にも消え入りそうな声でそう尋ねる。 「簡単なことですよ。確かに私はあなたとカードを交換して自分の順番を知らなかった。でも、交換前のカードは確認していた。私のもともとのカードは2番。私は誰かとカードを交換したら自分が何番になるかは分からない。でもただ唯一、知っていたことがある。それはカードを交換すれば、自分は確実に2番目以外になるということを」
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