「アンパサンド」

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何をきっかけにして目が覚めたのだろうか。瞼を開けてから意識が戻ってきたのか、それとも瞼が閉じているときに意識が戻り、その意識が瞼を開けさせたのか、どちらなのか分からない。何も分からない。 分かるのは頭の中に重く響く強烈な頭痛、頭蓋骨を何度も何度もハンマーで叩かれているような頭痛と吐き気だった。 辺りを見回す。自分は汚れたコンクリートの上に仰向けに倒れており、ここは床と同じ素材に四方囲まれた狭く蒸し暑い部屋だった。 部屋の中にあるものはと言えばボロボロの簡易ベッドと、申し訳程度に置かれた木製のテーブル、金属製の扉、そして天井に取り付けられじっとこちらを見つめる監視カメラのようなもの、ただそれだけ。窓一つない部屋。 「………窓?」 普通、部屋には窓がついているものなのだろうか。窓がない部屋こそが普通であるほうが可笑しいのではなかったか。 何が普通で何が可笑しいのか、何も分からない。自分が誰で、ここがどこで、何が起きているのか、何も分からない。 脳の中のものが全てすっぽりと抜け落ちてしまったかのように、何も思い出せない。 記憶を無理に思い出そうとしてみると、その代わりに吐き気だけが込み上げ、同時に猛烈な喉の渇きが襲ってくる。僕はゆっくりと立ち上がった。 壁に手をつき、そこに寄り掛かる。そうしないと自分の脚だけでは自分の体を支えることができなかった。 嘔吐。 コンクリートの床に空っぽの胃から込み上げた胃の酸が嗚咽と共に吐き出される。口のなかに酸っぱいものが広がる。 何かないかと木製のテーブルの上を見ると、そこには持ち手が錆た古い手持ちの鏡と、メモの切れ端、財布やあと多少の雑貨品が置かれていた。
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