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『ーー本日も、貴方の夜に寄り添う、宇宙ラヂオのお時間です』
今日も、私はチャンネルを合わせるの。
そしてね、ゆっくりと、貴方のことをおもって、うたたねをするの。
このラジオを聴いているときだけ、ちょっとね、素敵な夢を見れるの。
さっき見たのは不思議な夢。
私は宇宙飛行士で、あなたが農夫。
あなたは地球で、麦わら帽子をかぶりながら、小麦色に肌を灼いていてね、
野菜を育てているの。
わたしはある日、ようやく宇宙へ飛び立つんだけどね、
ちょっぴり寂しいの。
でも、飛び立ったとき、あなたが手を振ってるのをみて、私は元気に飛び立つの。
空は青く重い。
時間は果てしない。
そんなものに、私は不安になる。
あなたは遠くて、地球は遠くて、それなのに空はどこまでもどこまでも広がる。
私は、そんなものに気持ちをとらわれる。
けれど聞こえる。
コンピューターのかすかな唸り。
そして漂う、あなたの育てたトマトの匂い。
大丈夫よ。遠くの空から地球に、電波と愛を送るの。
だってあなたが見ててくれるんだもの。
お仕事?順調よ。今はね、イオンのパルスを読み取ってるの。
私にも良く分からないんだけどね。
そして今日もラジオを付けるの。
宇宙ラジオを宇宙で聴くなんて、素敵でしょ。
そして今日もあの曲がリクエストされる。
あなたも、聴いているのかな。この曲を。
そしたらあなたとわたしが、ほんの少しだけど、つながっていくのに。
アルデバランが見えたの。
地球にいたときより、うんとちかくて。当たり前よね。
けれど、地球で見たときよりも、星たちはずっと輝いてて、騒がしいの。
本当にきれいで、美しく光を放つの。
彼らも、私たちと同じようにいのちをもやしているのが、よくわかった。
そして貴方のTシャツは、今はきっとレタスの匂いなんでしょう。
あなたが遠いの。
そしてね、ついに地球に帰るの。
飛行船から降りて、
あなたの、前よりちょっと陽に灼けた腕に飛び込むの。
黄緑色の、風に包まれながら。
そしてね、ポケットから、内緒で火星のかけらを渡すんだ。
ほんとうにちっちゃくて、なんでもないけど、宇宙のちっちゃなかけらなの。
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